blog庄司園長の部屋

「あしたのそのつぎ」を見つめて

朝日新聞で連載されていた「折々のうた」が、4月より「折々のことば」として復活しました。昨日は、アーチストの日比野克彦氏のことばが紹介されていました。

「あしたのそのつぎに思いを描きます。まだ見えないけど、なんとなく見えるかな、を大切にします」

さて、先日行われた天童事業所「デイサポート 天花」の内覧会には、多くの方々に来場していただきました。感謝申し上げます。また、天童事業所が開設するということでメール等でも沢山のお問い合わせがありました。皆さんからのお問い合わせや要望等で最も多かったのが、「ショートステイ」の実施だったようです。

「ショートステイ」については、天花での実施も一時検討されたのですが、「スプリンクラー設備」の設置がネックとなり天花での実施は、今回見送らせていただきました。障がい支援区分4以上の方が多く利用する寝泊りする事業所(施設入所、グループホーム、ショートステイ)には、「スプリンクラー設備」を設置することが義務づけられているようです。グループホームの時にもご紹介させていただきましたが、スプリンクラー設備の設置には、多額の費用が掛かります。「月のひかり」でもショートステイを行っていますが、障がい支援区分の認定がない、児童に特化した形で運営するということで、スプリンクラー設備の設置は、目をつぶってもらっているところです。先日、川崎で簡易宿泊所の火災がありましたが、そうした事件の度に規制が強化されてきます。

「グループホーム + ショートステイ + グループホームでの生活を目指した体験利用 + 相談(コーディネート)」を一体的に行う拠点を福祉圏域または市町村に整備していくという「地域生活支援拠点」についての留意点等が厚労省から示され、いよいよ骨格が見え始めて来ました。グループホームの定員が特例として「10名 × 2 20名」までOKと言うところが、気になるのですが(グループホームのミニ施設化)、愛泉会ならこう考えるという、愛泉会版「地域生活支援拠点」が描けないか、検討してみたいところです。

「365日24時間、いつでも利用できる、コンビニエンスストアーのような福祉事業所」

「天花」の開設に満足することなく、「あしたのそのつぎ」を見つめて、取り組んでいきたいと思います。

共感する力

杉原保史さんが書かれた「プロカウンセラーの共感の技術」なる本を最近は、読んでいます。愛泉会の利用者支援の基本理念にも「受容と共感」がうたわれていますが、「共感」は対人援助サービスの基本です。

この仕事について28年、様々な方々と一緒に仕事をさせていただいておりますが、支援の様子を見ていて「センスがあるな」と思える人は、「共感する力」が高い人たちです。この本によれば、共感する力は、生まれつき備わっているものではなく、後天的に見につけていくものだそうです。私たちが、「共感する力」が高いなと感じられる人は、親、家族との関係が良好だった人たちなのだそうです。そして、対象者によっては、「共感する力」が高い人が、全く共感できず、「共感する力」が弱いと感じられる人が、共感できるなどという場合もあり、それは、その人に対する興味の問題なのだそうです。上手く表現できないので、詳しくは本を読んでください。ここで申し上げたいのは、共感力が強い人、弱い人にも、作為的に興味がわくように仕掛ければ、共感できるようになるのではないか、ということです。基本理念である「共感」を徹底するためには、仕掛けをすればいいのか……。

さて、2週に1度のペースでブログを書いているのに続けて書いているのは、うれしいことがあったからです。それは、いつもの「業務日誌」です。

「支援員として、一皮剥けた」と感じられる内容に喜びを隠せません。グループホームでの「語る会」の取り組みです。昨年開設したばかりのホームですが、入居する方々の想いを大切にした取り組みを行っていきたいと考え、Tリーダーは、PCPの手法を取り入れながら、入居者の視点で考えること、入居者の想いを引き出していくこと、そして引き出した声や要望を必ず実現させていくことを大切にし、取り組みを行ってきました。そして、この春、「語る会」で要望があった馬見ヶ崎川河川敷での花見を行ったそうです。高齢の方、障がいの重い方が生活するホームなので移動も大変だったようですが、業務日誌には、苦労を伺わせる記載は一切ありません。障がいの重い入居者の速度に合わせ、一緒に歩いたり、荷物を持って手伝ってくれたりする入居者の「心の優しさ」に感激したり、入居者がどんな風景に関心を持つのか、入居者の視点に立ち一生懸命見ようと努力する姿勢が伺われます。

また、入所支援のMリーダーは、Aさんと食事に出かけた時の様子を書いてくれていました。Aさんは、障がいが重く、全面的な支援が必要な方です。常日頃、あまり私たちの声掛けや誘導に応じてくれることはありません。その日は、Aさんの誕生日のお祝いで山辺町の食堂まで園の車を使い外出したようです。食事を済ませ、店を出た時、路線バスがたまたま通り掛かったのを見て、Aさんは、「バス」と言ったそうです。常日頃、あまり外出にも連れて行けず、好きなバスにも乗せてあげられず申し訳ないと感じたMリーダーは、「今がチャンス」とばかりに、一緒に行った職員に園の車を任せ、Aさんと一緒にバスに乗り込んだそうです。山形市役所までの短い旅。それでもAさんは、満足だったようです。上手く言葉で表現できない方たちの意思決定支援には、臨機応変さが大切なんだなと、Mリーダーの記載を見て感じました。

今年度、愛泉会の事業所として最も大切にしたいのは、「利用者中心の実践」です。それには、利用する方々1人ひとりの想いや願いを汲み取ろうとする姿勢、共感する力が欠かせません。スタッフみんなの共感する力を養っていくこと、高めていくことも私の仕事です。

福祉の仕事は楽しいですよ

今年もまた短大での授業がはじまりました。「相談援助」の授業を竹田さん、八柳さんと分担して受け持っているのですが、私の担当は、ケースワークやグループワークを中心にソーシャルワークの原理、原則をお伝えすることです。学がない私が授業をするのですから、理論や理屈よりも、実際の現場で取り組まれていること、利用する方々と接する喜びなどをお伝えすることをお伝えするのが関の山です。今年で7年目になるのですが、学生は、年々減少傾向にあるようです。若い人たちの福祉離れは深刻なようです。

さて、昨年、開設した上山市のグループホームみるく、くれよんに入居する方々のお話です。園からは、7名の方々に入居していただきましたが、いずれも20年、30年と長い間、施設や病院で生活することを余儀なくされた方々です。

Aさんは、向陽園での生活が8年、向陽園に入られる前に、他の施設に15年と親元を離れ20年以上施設で生活されておりました。施設で生活している時には、自分の居室で寝ることはなく、居室側のデイルームに布団を持ってきて休まれていました。Aさんは以前、薬の調整か何かで、精神科に入院されたことがあったのですが、Aさんは、鍵がかかる病室での生活を余儀なくされてしまったようです。大切な持ち物とは別々に……。Aさんには、それが何よりも辛い体験だったようです。

Aさんは、上山のホームの開設と同時にホームに移られたのですが、入居したその日から自室でゆっくり休まれたそうです。向陽園の居室には、病院での辛い日々を彷彿とさせる何かがあったのでしょうね。そして、ホームから買い物に出かけるため、ヘルパーさんの運転する車で向陽園の前を通った時のこと、Aさんは、向陽園を全く見ようとはせず、向陽園が見えなくなるまで反対を向かれていたそうです(「そんなにホームが良いのか」と、施設で働く職員は、少しがっかりですが、施設職員よ嘆くなかれ、皆の力が結集されて、ホームでのAさんの生活があるのです)。

とある研修会で以前こんな話を聞きました。「『100人一緒に入れる風呂に100人一緒に入浴させ』、『100人一緒にご飯が食べられる食堂で100人一緒にご飯を食べさせ』、それがおじいちゃんの仕事だと孫や子供に誇れるかと、『おじいちゃんは、囚われの生活を余儀なくされていた方々を少しでも自由に、そして解放された生活を提供するために働いてきた』と、孫や子供に誇られる仕事をしよう」と。

人は環境ない存在です。環境を改善すること、社会資源を調整することによって、1人ひとりの生活課題を改善すること、自己実現を図っていく活動がソーシャルワークです。3K、5K、人の弱い部分を支える仕事だから当然あります。それでも福祉の仕事は楽しいですよ。