blog庄司園長の部屋

新しい人よ目覚めよ

母親が長年知的障がいを持つ方々の施設で働かせていただいたことから、母親を知る方々に出合うと、「お母さんの後を継いで福祉の世界に入ったの?」、「お母さんに影響されてこの道を選んだの?」と言う質問をよく受けます。自分自身としては、「母親に反発して……」と言う思いがあるのですが、なかなか言い出すこともできません。

あれは、大学2年の夏だったと思います。夏休みで帰省し、実家で過ごしている私に母親が、「障がいを持つ子供を抱える家族は可哀そうだ」ということを言い出しました。ちょうど施設もお盆帰省の時期で子供を迎えに来るご家族との会話を受けてのことだと思いますが、福祉を志す生意気盛りの私には、それは許される発言ではありません。「福祉で働く人間が、そんな発言をするとは……」と激しい口論になりました。大学に戻ってからも、釈然としない思いがあり、恩師である坪上宏先生にその話をしたところ、1冊の本を読むように進められました。大江健三郎氏の著書「新しい人よ目覚めよ」です。

大江氏のご子息光さんは、皆さんご承知のように音楽家としても素晴らしい才能を発揮されておりますが、知的障がいをお持ちです。大江氏は、光さんが生まれた時から、作家としての自分が障がいを持つ子供といかに共生していくかを模索し、「個人的な体験」や「ピンチランナー調書」などを描いてきましたが、「新しい人よ目覚めよ」は、ウイリアム・ブレークの予言詩を媒介としながら、成人した障がいを持つ子供との共生の姿を描き、次の世代である障がいを持つ兄と弟、妹との共生に思いをはせて終わります。

私にとっては、母親の世代から次の世代の福祉を求めてこの道を選んだと言いたいのですが……。

さて、先日、県協会の事務局長である渋谷博夫さんが急逝されました。渋谷さんは、大学の先輩でもあられましたが、実際にご指導いただいたのは、長年勤められた県の社会福祉事業団を退職されてから、ここ5年ほどで、事業団在任時のご様子は、常務から「伝説」としてお聞きする程度でしたが、法人の第三者委員として、そして県協会の事務局長として、様々なことに取り組む姿には、頭が下がる思い、いや「畏敬の念」を抱いておりました。

5月9日、亡くなられたその日に、特別な用事もないのにお邪魔し、お話ししたのが最後でしたが、県協会の政策委員会の在り方について、「本格的な政策提言ができるようにしたいね」というのが私の耳に残された最後の言葉となりました。

ご葬儀には、法人の第3者委員である山口さんをはじめたくさんの方がおいででしたが、皆さん第一線を引いた後も障がいを持つ方々のため、そして福祉のため精力的に活動をされています。

50を過ぎて、次代を育てるなどと思っていましたが、まだまだですね。目覚めるべきは、私たちの世代ですね。「新しい人よ目覚めよ」、渋谷さんは、我々世代に覚醒を促しているように思います。渋谷さんのご遺志を継いで……。                                           合掌